◆意味
身分相応に暮らし、身分以上も身分以下もよろしくないと、説いているのである。すなわち、「身上に応じて相続の妨け出来ぬ様に、割方を考え、以て世の交、義理、順義を勤メ、心得て家相応の分限を知て、正直、正路にして、質素に暮すべし」としている。
◆背景
西村家は、寛文元年(1661)に象牙屋(象彦の前身)を開業した京都の漆器道具商です。朝廷より蒔絵司の称号を拝受した名匠の三代目、仙洞御所の御用商人となった四代目、風流の道に通じ茶道家元のお好み道具を製作した六代目、漆器の輸出を手がけ漆器貿易の先駆者と呼ばれた八代目。歴代の当主は、創業以来350年以上、美しい京漆器の伝統を受け継ぎつつ、その新たな可能性を広げる活動も積極的に行っています。
この西村家の家訓では「仁義礼智信の教をよく守って、身の分限を忘れぬようにせよ」と説いています。分限を超えてはならないが、分限以下に下ることもよくないといった、消極的な面と積極的な面の両面を守ることで、それぞれの代が先代を少しずつ超えていくことにつながっていったのです。
「分限」は、家訓によく登場する言葉です。これは、「身の程を知って分相応に暮らすこと、分限を越えることなく、また分限以下に下ることなく、身分相応に暮すことが肝要であって、これが家名永続の不可欠の要素 」である、という意味です。「分限=分を超えない」と考え、現代の“チャレンジ”とは逆の意味で捉えられがちです。しかし、「分限」には二つの意味があります。一つは「家業の分限を守り、家業に専念すべきことが大切である」ということ。もう一つは「自分を卑下して過ごすこともよくない」ということです。今目の前のことに懸命に取り組むことが、祖先が残してくれた「分」を大きく伸ばし、のれんの価値を高め、託された技術や財を増していくことにつながります。さらにこうした日々の取り組みが、自分自身の持つ才能を開花させ、「分」を下回ることなく大きな成長へとつながるのです。西村家の歴代当主の業績からも感じられることです。分限とは、けっして自分自身を縛る言葉ではなく、現代に家業をステップアップし着実な成長を促していくための、貴重なキーワードなのです。ご自身の分限をぜひ、考えてみてください。そこに、あなた(あなたの会社)の成長のヒントが見つかるはずです。
※1〜3出典:足立政男(1990).『シニセの家訓--企業商店・永続の秘訣』心交社。
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