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◆意味
たとえ他国へ行商に出かけても、自分が持参した商品を、その国の人々が皆気分よく着用してもらえるように心掛け、自分のことばかりを思うのではなく、まずお客のためを思って、一挙に高利を望まず、何事も天道の恵み次第であると謙虚に身を処し、ひたすら行商先の人々のことを大切に思って、商売をしなければならない。そうすれば、天道にかない心身ともに健康に暮らすことができる。自分の心に悪い心が生じないように、神仏への信心を忘れないこと。地方へ行商に出かけるときは、以上のような心構えが一番大事なことである。このことをよく心掛けることが一番である。
出典:吉田實男(2010).『商家の家訓』清文社。

◆背景
宝暦4年(1754)、主に麻布を扱った近江商人の二代目中村治兵衛が書き残した家訓「宗次郎幼主書置(かきおき)」全11条の一節です。
江戸時代、他国へ行商し、その地で商いをしていた近江商人。他国で地盤を築き商売を続けていくためには、自らの利益を追求するだけではなく、地域に貢献し関わりを持つすべての人に満足してもらうことこそが重要だ、と二代目中村治兵衛は説いたのです。

 

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この家訓を“売り手よし、買い手よし、世間よし”と解釈した現代の研究者によって、近江商人の基本理念として有名な「三方よし」の言葉が生まれました。経営方針に採用されたり営業教育の場で引用されることも多い「三方よし」ですが、現代では当たり前のようになっている“CS経営”の考え方が、江戸時代にすでに重視されていたことを教えてくれます。

また、この「三方よし」は、CSR(企業の社会的責任)という側面で海外からも注目を浴びています。CSRとは、企業が倫理的観点から事業活動を通じて自主的に社会に貢献する責任のことであり、あらゆるステークホルダー、従業員やサプライヤーなどに対しても適切な意思決定をする責任を示します。

この家訓が書かれた300年近く前に、現代でいうCS経営・CSRを実践し、そして次世代にその考え方を書き記し伝えていたことは、世界でも大きな驚きをもって受け止められ、「三方よし」は海外でもちょっとしたブームとなっているのです。hirabayashi04

 

 

 
 

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